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柔道整復学科

牛でいうと最高級ヒレ肉?体幹と下半身をダイレクトにつなぐ最強のインナーマッスル「腸腰筋」【解剖生理おもしろ雑学帳Vol.18】

こんにちは、教員の青木です。

「股関節を曲げる(屈曲させる)筋肉といえば?」と聞かれたら、みんな真っ先に「腸腰筋!」って答えるよね。

試験前には呪文のように暗記するこの筋肉やけど、実は教科書を見るだけではイマイチその凄さがピンとこない筋肉でもあるねんなぁ。

実はこの腸腰筋、ステーキ屋さんでいうと最高級部位の「ヒレ肉」と同じ部分で、なおかつ世界のトップアスリートの強さの秘密を握っている、超エリートマッスルなんやで。

今回は、知れば知るほど愛着が湧く「腸腰筋」を深く掘り下げていきましょう!

なぜ腸腰筋はイメージしにくいの?

まず、腸腰筋のイラストをみてください。

腸腰筋は、実はひとつの筋肉の名前ではなく、背骨(腰椎)に付着する「大腰筋(だいようきん)」と骨盤の内側にある「腸骨筋(ちょうこつきん)」という2つの筋肉が合流した総称で、そう呼ばれとるねん。

背骨や骨盤の内側という「体の最深部」から始まって、大腿骨のこれまた内側に回り込むように付着しているインナーマッスル。だから、表面の筋肉図を見てもどう立体的に走っているのかイメージしにくい、非常に描きにくい筋肉なんやね。

教科書では、以下のような正面図だけで紹介されていることが多い。でもこれじゃ奥行きが分かりづらいやんなぁ。

腸腰筋は、カラダの後ろから始まり、前(鼠径部)に出てきては、また後ろに戻る。横から見たら「く」の字になっとる。そやから姿勢にも影響する筋肉なんやなぁ。斜めや横から見るとその走行がよくわかるんや。

都市伝説「黒人選手は腸腰筋が3倍太い」の真実

陸上やスポーツの世界で、こんな話を聞いたことがある人も多いんやないかな?
「黒人選手は腸腰筋(特に大腰筋)が日本人の3倍太いから足が速い」

結論から言うと、この「3倍」という数字は少し大げさに広まった話なんや。


近年、MRIを使って筋肉の大きさを調べた研究では、世界トップクラスのジャマイカ人スプリンターは、日本のトップレベル選手と比較して、大腰筋など一部の筋群の横断面積が大きいことが報告されている。その差は、およそ1.3~1.6倍程度。
 (※参照:鹿屋体育大学 久保潤二郎 ほか 短距離選手の筋形態研究)

「なーんやぁ、3倍ちゃうやん!」と思うかもしれへん。でも、筋肉の世界で1.5倍近い差というのは、実は非常に大きな違いやで。

特に100m走のように、短時間で大きな力を発揮する競技では、発達した筋肉は大きな武器になる。
しかし、世界トップレベルのスプリンターの速さは、筋肉が太いだけで決まるわけではない。
大切なのは、その筋肉をどれだけ効率よく使い、力をスピードへ変換できるかということなんや。

腸腰筋は、腰椎や骨盤から大腿骨につながる身体の奥深くにある筋肉で、主な働きは股関節を曲げること。走る動作では、後ろに残った脚を素早く前へ振り出す役割を担っている。短距離走では、一歩一歩の切り返しの速さが重要になる。その時に活躍するのが「腸腰筋」ちゅうやつやぁ。

さらに、走動作では「伸張短縮サイクル(Stretch-Shortening Cycle:SSC)」という仕組みが働いている。これは、筋肉や腱が引き伸ばされた直後に、その反動(弾性)と神経の反射(伸張反射)を利用して爆発的に力を発揮する仕組みや。イメージすると、引っ張ったゴムが元に戻ろうとする力に、自ら縮む力が加わって勢いよく弾むようなもの。

股関節周囲の筋肉や腱が持つバネのような能力をうまく利用することで、脚を素早く前へ運び、次の一歩につなげることができる。

世界トップレベルのスプリンターは、
・発達した腸腰筋などの筋力
・股関節を大きく使える身体の特徴
・優れた神経系の働き
・長年積み重ねた技術とトレーニング

これらを組み合わせることで、爆発的なスピードを生み出しているんやね。

もちろん、日本人だから速く走れないということではないんやで。
生まれ持った筋肉の大きさには個人差がある。しかし、腸腰筋を含む股関節周囲筋を鍛え、身体を効率よく使う能力を高めることは誰にでもできる。大切なのは、「筋肉が大きいか」だけではなく、「その筋肉をどのように使うか」。それを理解することもスポーツで身体を見る上で大切な視点なんやね。

ここでスッキリ!腸腰筋の基本情報(教科書スペック)

エリートマッスルの構造がイメージできたところで、国試に出る基本情報を整理しておこう。
ここ、意外とひっかけ問題の宝庫やで!

【腸腰筋(Iliopsoas)】

 ① 大腰筋(Psoas major)
 ・起始: 第12胸椎・第1〜4腰椎の椎体・肋骨突起
 ・停止: 大腿骨の小転子
 ・支配神経: 腰神経叢の筋枝(L2-L4) 

 ② 腸骨筋(Iliacus)
 ・起始: 腸骨窩(腸骨内面)
 ・停止: 大腿骨の小転子(大腰筋と合流して停止!)
 ・支配神経: 大腿神経(L2-L4)

  • 腸腰筋(大腰筋・腸骨筋)の作用: 股関節の屈曲・外旋、骨盤の前傾、腰椎の前弯

国試ひっかけ対策のワンポイント

停止部は「大転子」ではなく「小転子」!ここ、国試の選択肢でよく出てくるから気をつけやぁ。絶対に「小転子」でインプットしときやぁ!
また、大腰筋のすぐ隣にある「小腰筋」は、日本人の約半数で欠如しているというマイナーな筋肉やけども選択肢にサラッと出ることもあるで。

座りっぱなしが腸腰筋に与える影響

冒頭で「牛のヒレ肉と同じ部分」ってお話ししました。ヒレ肉って、どうしてあんなに柔らかくて高いか知っていますか?答えは「あまり動かさない場所だから」。

人間にとっても腸腰筋は、実は気を抜いたらとってもサボりやすい筋肉なんやで。
特に長時間座りっぱなしの生活が続くと、腸腰筋は本来の働きを十分に発揮しにくくなる。

ただ、おもろいのは、同じ「座りっぱなし」でも、体に起こる変化は人によって真逆になるっていう点。ここが臨床の奥深いところなんやで!

① 腸腰筋が「短縮」してしまうタイプ(ガチガチ反り腰型)

浅く腰を掛け、腰を反らせた姿勢が続くと、股関節の前側が詰まって腸腰筋が短くなりやすくなる。

短縮して固まった腸腰筋は、立ち上がろうとした瞬間に腰椎(腰の骨)を前方へギューッと力任せに引っ張ってしまうんやね。これが骨盤を前傾させ、腰椎の反りが強い「反り腰」を生み出す。腸腰筋が短縮して緊張が強くなると、身体を後ろに反らそうとした時、骨盤が後ろに倒れてくれず、過度に腰椎をそらそうとして腰痛の原因になることもあるんやわ。

② 腸腰筋が「緩んで伸び切る」タイプ(ヘロヘロ丸まり腰型)

一方で、椅子に浅く腰かけて背中を丸くもたれた姿勢(いわゆる仙骨座り)を長時間続けていると、腸腰筋はあまり使われず、ダラーンと緩んで伸び切った状態になってしまいます。
こうなると完全に機能低下(弱化)を起こすんやけど、気をつけなあかんのはここから。

骨盤が後ろに倒れた「骨盤後傾位」のまま固まるから、連動して太ももの裏の「ハムストリングス」もガチガチに短縮してしまうねんなぁ。

この状態の人が立ち上がって前屈(お辞儀)をしようとすると、ハムストリングスが伸びてくれず突っ張って、骨盤が前に倒れにくい(前傾できない)状態になります。骨盤がロックされるから、代わりに腰の骨(腰椎)を過剰に丸めて動かすしかなくなって、結果として腰の筋肉や関節にめちゃくちゃ大きな負担がかかって痛くなってまうわけや。

つまり、腸腰筋は「硬くなる(短縮)」こともあれば「緩む(機能低下)」することもある。

短縮して柔軟性を失う人もいれば、十分に働けず弱くなって骨盤後傾型の腰痛を引き起こす人もいる。 治療家としてはどっちのタイプか見極める力も大事になってくるんやね。

柔道整復師として知っておきたい臨床のポイント

じゃあ、目の前の患者さんがどっちのタイプか、どうやって評価したらいいと思う?

ここで学校の実技でも習う「トーマステスト(Thomas test)」や「SLRテスト( Straight Leg Raising test)」、また姿勢(アライメント)や前後屈の動きの観察などが活きてくるんやで!

腰痛だからといって腰だけを診るのではなく、「腸腰筋の機能はどうなのか?縮んどるんか?それとも緩んでサボっとるんか?骨盤の傾きはどうや?」という視点を持つことが、臨床の場面でも大切になってくるんやぁ!

まとめ

今日は「腸腰筋」についてじっくり紹介しました。

単なる「股関節の屈曲」という文字の暗記やった腸腰筋が、最高級のヒレ肉やったり、ボルトの速さの秘密やったり、骨盤の傾きを左右する腰痛の鍵やったり……一気にストーリーが見えてきたんじゃないでしょうか?

勉強の合間に立ち上がるときは、自分の腸腰筋がガチガチなのか、それともヘロヘロなのか、骨盤の立ち具合やお腹の奥を意識しながら、ゆっくりストレッチしたりもも上げしたりしてみてやぁ!

それでは、また次回の【解剖おもしろ雑学帳】でお会いしましょう!

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