
⸻
引退して、しばらく経ったころ。
ふと気づく。
毎日あった練習がない。
大会もない。
次の試合もない。
気づいたら、時間だけがある。
でもその時間、
どう使えばいいか分からへん。
これまで忙しかった分、
急にできた空白に戸惑う。
ある生徒は、こんなふうに言ったらしい。
「なんか、ぽっかり穴が空いた感じです。」
⸻
これまでの生活は、
野球中心やった。
朝起きて、学校行って、
放課後はグラウンドに行って、
練習して、帰って寝る。
当たり前やったそのリズムが、
体にも心にも染みついてた。
せやから引退した瞬間、
そのリズムがなくなる。
毎日やることが決まってた世界から、
急に“何をしてもいい世界”に変わる。
それが、なんとも言えん空っぽさを生むんや。
⸻
ある指導者も、こう言ってた。
現役を終えたとき、
自分の中に大きな喪失感があった、と。
「自分は何を支えに生きればいいんだろう」
そんなことを考えた時間があったらしい。
ずっと野球が中心やった人生。
そこから急に切り離されると、
自分の立ってる場所が分からんくなる。
でもな、その人はあとになってこう振り返ってた。
「あの“空白の時間”があったからこそ、
次の人生をちゃんと考えることができた」って。
⸻
人ってな、
走り続けてるときは
自分のことをゆっくり考えられへん。
目の前の試合。
次の大会。
次の練習。
次へ次へと進むことで、
毎日が埋まっていく。
でも一度立ち止まると、
初めて見える景色がある。
「自分は何が好きなんやろ」
「これからどんな生き方したいんやろ」
そんなことを、
ゆっくり考える時間ができる。
⸻
引退してできたその時間は、
決して無駄やない。
むしろな、
次の自分をつくるための時間なんや。
焦って何かを決めなくてもいい。
無理に前へ進もうとしなくてもいい。
少し休んで、
少し考えて、
また動き出せばええ。
⸻
部活で頑張ってきたあんたなら、
もう分かってるはずや。
コツコツ積み重ねたら、
ちゃんと形になるってことを。
走り込みも、
素振りも、
最初から結果が出たわけちゃう。
続けたから、
力になった。
⸻
引退してできたこの時間は、
止まってるように見えるかもしれへん。
でもな、
ちゃんと未来につながってる。
土を耕してる時間みたいなもんや。
今はまだ芽が出てへんだけで、
その下ではちゃんと準備が進んでる。
⸻
焦らんでええ。
今はまだ、
次の章の準備期間なんや。
この静かな時間が、
きっとあんたの次の一歩をつくっていく。
タマノスケは、そう思うで。







