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決勝戦の前日。
どこかそわそわした空気がグラウンドに流れていた。
レギュラー組が最後の調整をしている横で、ベンチ外の選手たちは、少し距離をあけてボール磨きをしていた。
ふと、ひとりがつぶやいた。
「オレら、明日出番ないけど……何すればええんかな?」
その声には、悔しさと不安と、ほんの少しの孤独が混ざっていた。
タマノスケはその言葉を聞いて、すぐには返事せんかった。
ゆっくり深呼吸してから、こう言った。
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「支えるってな、“見えへんけど、いちばん熱い場所”やで。」
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スポーツって、どうしてもスポットライトが当たるのは“プレーする側”や。
ホームランを打った選手。
完投したピッチャー。
ガッツポーズを決めたキャプテン。
でもな、
その背中を押したのは、いつだって“誰かの支え”なんや。
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松井先生はこう話してくれた。
「控え選手が、誰より早く来て黙々とグラウンドを整えてたんや。
それを見たレギュラーが自然と動き出した。
ああいう“見えん努力”が、チームの土台になっとるんや。」
その言葉を聞いた時、タマノスケは胸がじんとした。
誰にも見られてへんはずの時間が、
実はチーム全体に“影響”を出しとる。
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土井先生も、こんな出来事を話してくれた。
怪我でプレーできなくなった選手のことや。
しばらく落ち込んでたけど、
ある日ふっと覚悟を決めたような顔で、
「マネージャーみたいに支える側にまわります」と言ったんや。
水の準備、声出し、ベンチワーク、データ整理。
彼は、できることを必死に探して動いた。
すると、周りの選手が言い出した。
「アイツのためにも勝ちたい」
「プレーで返したい」
「一緒に戦ってる感じする」
気づけば、空気が変わってた。
その子の“裏からの熱さ”が、チーム全体をひとつにしたんや。
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主役やない場所にも、熱いドラマは必ずある。
誰かに見られへん努力。
名前が呼ばれることのない仕事。
拍手されることなんてない役割。
でもな、
その悩みながら踏ん張る姿こそ、チームを前に進める「エンジン」になるんや。
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タマノスケは、ベンチ外の選手たちを見て言った。
「自分を主役にせんでも、
誰かを輝かせる力になれるって……めちゃくちゃカッコええで。」
「プレーできへん悔しさは、ちゃんとわかってる。
でもな、その悔しさを“誰かを支える力”に変えられるやつは、
ほんまの意味で強いねん。」
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支えるって、ただの裏方やない。
誰よりもチームのことを思う力。
誰よりも仲間のことを信じる力。
誰よりも「勝たせたい」って願う強さ。
それが詰まっとる場所なんや。
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そしてタマノスケは、最後にそっと付け加えた。
「君がそこにおるだけで、
“このチームなら大丈夫や”って思えてる仲間がおるんやで。」
「誰かの背中をそっと押せる人こそ、
チームの“心”を支えてるんや。」
だから――
君が担ってるその役割、
どうか忘れんといてな。
それは、誰にでもできるもんやない。
胸張って、明日もチームを支えていこうな。







