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ある日の放課後、夕焼けがグラウンドを赤く染め始めたころ。
タマノスケはベンチを片付けようとしてたんやけど、
その端っこに、ひとりぽつんと座ってる控えの選手がいた。
帽子のつばを深く下げて、つぶやくように言った。
「オレ、どうせ試合に出られへんし……意味あるんかな」
その声は、小さくて、弱くて。
だけどタマノスケには、しっかり届いた。
タマノスケはその横にそっと座って、こう言った。
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「お前がおるから、このチームは動いてるんやで」
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選手は驚いた顔をしてた。
でもな、これは慰めとかやさしい言葉やなくて、タマノスケの“本音”や。
野球はな、グラウンドに立つ9人だけで戦ってるんとちゃう。
試合に出てるプレーヤーも、背番号を背負った控え選手も、
声出して盛り上げるやつも、道具を整えてくれるやつも、
休み時間にアドバイスくれるやつも、
みんながひとつになって、はじめて“チーム”になるんや。
ある先生がタマノスケにこんな話をしてくれたことがある。
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「ベンチで声を出し続けた選手がおってな。
試合中、レギュラーがミスして落ち込んだとき、
真っ先に立ち上がって“いける!まだいける!”って声をかけた。
その一声で試合の流れが変わったんや。
支えるって“見てるだけ”と違う。
空気を変えられる力や。」
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また別の先生はこんな話をしてくれた。
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「ある日、控えのやつが誰よりも早く来て、
黙ってグラウンドの準備を全部してたんや。
それを見たレギュラーが
“アイツがここまでやってんねん。オレらももっと動かな”
って言い出してな。
その“見えへん努力”で、チームが一気に引き締まった。」
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タマノスケは思う。
“支える”って、実はめっちゃ難しいんや。
試合みたいに大きな拍手があるわけやない。
ヒットみたいに数字で残るわけでもない。
「ありがとう」って誰かに言われることも、多くはない。
せやけどな。
それでも自分の役割を続けられるって、
めちゃくちゃ強いことやと思うんよ。
控えの選手の中には、
悔しい気持ちを飲み込んでベンチを盛り上げてるやつもおる。
自分が出られなくても、仲間の成功に本気で喜べるやつもおる。
そんな姿が、実はチームを底から支えてる。
タマノスケは、ゆっくり選手に向き直って言った。
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「主役を照らすライトってな、
その後ろに“土台”があるから立ててるんや。
その土台がなかったら、どんなライトも倒れてまうんよ。」
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君がやってることは、
誰かのプレーを支え、
チームの空気を整え、
みんなを前に進ませる“土台”なんや。
たとえ今日、背番号を呼ばれへんかったとしても、
君がその場所におるだけで、チームの強さは変わる。
タマノスケは最後にこう言った。
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「今やってるその努力には、間違いなく“意味”があるんやで。
君がいるから、このチームは戦えるんや。」







