「部活か、勉強か。どっちかに絞らなあかんのかな…」

放課後の廊下。
カバンを肩にかけたまま、後輩がぽつりとつぶやいた。
ノートを開いたまま、ため息まじり。
その姿を見た瞬間、オレはなんか胸がチクッとした。
――昔の自分を見てるみたいやったから。
⸻
中学生のころのオレも、まったく同じことで悩んでた。
部活が大好きで、練習も一生懸命やりたかった。
でも、勉強もちゃんとせなあかん。
「どっちも全力でやりたい」って思うくせに、
気づいたらどっちも中途半端になってる気がして、
自分にイライラしてた。
あの頃のオレは、“どっちかを選ばなあかん”と思い込んでたんや。
けど、ある日、顧問の先生が言ってくれたひと言が
今でも心の支えになってる。
「全部を完璧にやろうとせんでええ。でも、ゼロにはするなよ」
⸻
その言葉を聞いた瞬間、肩の力がスッと抜けた。
「そうか、完璧にやらんでもええんや」って思えた。
それからオレは、自分の中で小さなルールをつくったんや。
“10分だけでもやる”。
どんなに疲れてても、部活でヘトヘトでも、
机に向かって10分だけ勉強する。
10分でええから「ゼロにしない」。
たったそれだけ。
でもな、不思議なもんで、
それを続けていったら、
“やらへん日”があるほうが気持ち悪くなってくるんや。
10分が15分になり、15分が30分になって、
気づけば「続けること」自体が自信になってた。
⸻
この前、悩んでた後輩にも同じことを言った。
「今日、完璧にやらんでええ。
けど、“ゼロ”の日をつくらんようにしてみ。
それだけで、変わってくるから」
その子は最初ピンときてへん顔してたけど、
一週間後くらいに「毎日10分、英単語やってます!」って
ちょっと誇らしげに言ってきた。
それを聞いたとき、オレ、心の中でガッツポーズしたで。
⸻
時間ってな、意外と“隙間”にあるもんや。
授業の合間の5分でも、
電車の中でも、
寝る前のちょっとの時間でもええ。
完璧な1時間より、積み重ねた10分のほうが
よっぽど強い力になる。
「時間がない」って言葉は、
“まだ本気になれてない”ってサインかもしれへんな。
ほんまに両方やりたいなら、
その気持ちを信じてちょっとずつ動けばええ。
⸻
両立って、“完璧にこなすこと”やない。
「やめないこと」「続けること」やと思う。
途中で止まってもええ。
スピードが遅くてもええ。
でも、「ゼロにしない」。
それが一番大事なんや。
⸻
オレも、まだまだ道の途中や。
大人になっても、「両立」って言葉はついて回る。
仕事と家庭、責任と夢、守ることと挑戦すること。
いくつになっても“どっちも大事にしたい”って気持ちは変わらへん。
だからこそ思う。
高校生のみんなにも、「どっちもあきらめんでええ」って伝えたい。
完璧やなくてええ。
カッコ悪い日があってもええ。
それでも“続ける自分”を信じて、
一歩ずつ積み重ねていけば、きっと見えてくる。
“両方とも、あきらめたくなかった”
その気持ちこそが、きっと未来の自分を強くするんやと思う。







