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野球コース

タマノスケ新章7話【当たり前やと思ってた時間が、宝物になるんや】

卒業まで、あと少し。
最後の公式戦が終わって、タマノスケたちの代は引退した。
いつもは声であふれていたグラウンドが、今日はどこか静かで、やけに広く感じる。

部室に戻る途中、誰かがポツリとつぶやいた。

「終わったなぁ……」

その言葉に、誰も返事をせんかった。
返せへんかった、って言ったほうが正しいかもしれん。
全員が心のどこかで、同じ気持ちを抱えてたからや。

思い返せば、毎日同じメンバーで走った。
炎天下の中、泥まみれになって必死で声を張り上げた。
ミスして悔し涙を流した日もあったし、意見がぶつかって口きかん日もあった。
それでも不思議と、次の日には笑い合ってた。

そんな日々が、当たり前のように続いていくと思ってた。
でも、当たり前は突然終わりを迎えるんや。
その現実を、今ようやく突きつけられてる気がした。

タマノスケはふと思った。

「“最後の日”って、ほんまにあるんやな」
「もっと一緒に練習したかったな」
「もっと感謝、ちゃんと伝えとけばよかったな」

そう思えば思うほど、胸の奥がギュッと苦しくなった。
まだ心のどこかで「明日もまたグラウンドで会えるやろ」って思ってる自分がいて、その気持ちとのギャップがしんどかった。

ある先生がこんなことを言ってた。

「いつか必ず終わりが来る時間を、無駄にするべきではない」

そのときは深く考えんかったけど、今になって、ようやくその言葉の意味が心に染みてくる。

楽しかったことも、しんどかったことも。
勝った日も、負けて泣いた日も。
全部まとめて「思い出」になる。

でも、その思い出の中に“仲間の存在”があるからこそ、ただの記憶じゃなくて、“宝物”になるんやと思う。

後輩たちがグラウンドを走っている姿を見ながら、タマノスケは小さく笑った。
「今の時間を、全力で楽しんでほしい」
「仲間と一緒におれる“今”が、どれだけ大事かって……オレたちは卒業してからやっとわかるんや」

今の一瞬一瞬は、あとから振り返れば全部かけがえのないものになる。
だからこそ、当たり前やと思わんでほしい。
仲間と過ごせる今この時間を、大切にしてほしい。

最後の挨拶。
「泣かん」って決めてたはずやのに、気づけば目頭が熱くなってた。

「最後の挨拶、泣かんって決めてたのに……」
と誰かが言うと、

「バカやな、そんなん泣くに決まってるやん」
と、仲間が返した。

そのやりとりに、みんながクスクス笑った。
でも、その目の奥には同じ涙が光ってた。

タマノスケも、こっそり袖で涙をぬぐった。
「このメンバーで過ごした時間、ずっと忘れへん。何年たっても、ずっと宝物や」

そう心の中で強くつぶやいた。

仲間と過ごす時間は、決して永遠やない。
でも、終わりがあるからこそ輝くんやと思う。
「当たり前やと思ってた時間が、宝物になる」――それが仲間の力や。

また次、会おな。
タマノスケより。

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